こんにちは。薬剤師のタコp🐙です。お薬のお話と40代からの子育てについて書いています。
随分前の話になるのですが、私の病院勤務時代の経験をお話しします。その病院は結核患者を受け入れる専門病院でした。結核は過去の病気のように思われていますが、2019年では新規結核患者数は14460人で、2088人が亡くなっています。(出典:2019年 結核登録者情報調査年報集計結果について)この数は年々減っていますが、毎日のように報道されている新型コロナウイルス感染症の死亡者数が約3500人(2020年12月31日現在)であることを考えると、ほとんど忘れ去られている結核の死亡者数もいまだに少なくはないと思われます。
日雇い労働者とはどのような人たちか
特徴
- 仕事が少ない地方都市から就職してきている。
- 路上生活または簡易宿泊所と呼ばれる安く宿泊できる施設に居住し、肉体労働を主とし、不安定な雇用である。
- 高齢化していて、家庭の事情もあり、出身地に帰ることも困難である。
現在では短期のアルバイトなど1日だけであってもスマートフォンで探すアプリがあるそうですが、私が出会った入院患者さんたちが生きてきた世代はそのようなものはなく、普段は路上生活や簡易宿泊所と呼ばれる安く宿泊できる施設に居住していて、早い者勝ちで仕事を提供してくれる集合場所に集まって仕事をさせてもらうという日雇い労働しかありませんでした。それは、ほぼ建設現場で働くという肉体労働でした。履歴書も面接もなく、身一つで仕事が終わったらすぐ給料がもらえるというのが魅力ですが、健康保険もなく、明日も仕事があるとは限らないというのが欠点です。彼らは特定の会社に就職して通勤するということが苦痛と感じている人が多かったようです。不安定な雇用ではありますが、高度経済成長を支えてきた自負さえ感じることもありました。もちろん、中にはいわゆる反社会的勢力に入っていて通常の就職が難しいなど個人的事情がある人もいました。
結核は感染力の強い病気
高齢の労働者たちは若いころに結核に感染し、一度は治癒しても年齢を重ねて免疫力が弱ってくると結核を発症することがあります。結核は感染力の強い病気であるので、そのような苛酷な労働環境の中で集団で働いているとその周りの人にも感染させることがあります。結核も新型コロナウイルスと同様に空気感染するのです。そのため、私も病棟に行くときは白衣の上に予防衣というエプロンのようなものを着て、特殊なマスクをして行っていました。
薬剤師の立ち位置
勤めていた病院での薬剤師の仕事は大きく分けて薬局内で調剤をする仕事、病棟指導と呼ばれる病棟に行って体調の変化などがないかどうかを伺いに行く仕事でした。私は病棟指導の仕事をしていました。入院患者さんのほとんどが日雇い労働で働いてきた人たちで、私は価値観が異なる人たちとどのように接していけばいいのか悩みました。
患者さんは、診察で医師に会い、薬は基本的に3種類の薬を同時にのむ必要があるのですが、まとめて分包されているものを看護師が見ている前でのんでもらうというルールになっているため、薬を飲むために看護師に会い、その後に薬剤師が来るのです。次々と対応が面倒だなあと思われても仕方ありません。
そのような厳しい状況でしたが、入院患者さんは私が訪問することに好意的な人が多かったように思います。「看護師たちは厄介者にするが、違う立場で若い男性が説明に来てくれることは有難い」などと言われたこともありました。今の医療では多職種の立場から一人の患者さんも診るのが主流ですが、その当時はまだチーム医療などということはありませんでした。価値観は違うと思っていたのですが、接してみるとお一人お一人、本当に良い人で皆さん正義感が強く社交的でした。私にとって、若い間にこのような経験をさせてもらえたことは、今となっては人生の宝です。
皆さんの意見がありましたら、お問い合わせフォームからよろしくお願いいたします。
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