アルツハイマー型認知症の新薬|レカネマブ・ドナネマブを薬剤師が解説

記事内に広告を含む場合があります

薬剤師

「親がアルツハイマー型認知症と診断された」「テレビで認知症の新薬のニュースを見たけれど、実際どうなの?」——薬局の窓口でも、ご家族からこうした相談を受けることが増えました。実は認知症の治療薬は、この数年で大きな転換点を迎えています。この記事では、現役薬剤師の私が、新しいタイプの治療薬「レカネマブ(レケンビ)」と「ドナネマブ(ケサンラ)」について、従来の薬との違い・対象となる方・費用・注意点をわかりやすく解説します。

従来の認知症治療薬にできること・できないこと

ドネペジル(アリセプト)などは「症状の進行を緩やかにする」薬

これまでアルツハイマー型認知症に使われてきたドネペジル(アリセプト)などの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、記憶力の低下などの症状の進行を緩やかにする薬です。多くの患者さんの生活を支えてきた大切な薬ですが、病気の原因そのものに働きかけるわけではないため、進行を止めたり、元に戻したりすることはできません。また、吐き気などの副作用で続けられない方もいらっしゃいます。

「原因に直接アプローチする薬がほしい」——これが長年の課題でした。その扉を開いたのが、次にご紹介する抗アミロイドβ抗体薬です。

新しいタイプの薬「抗アミロイドβ抗体薬」とは

原因物質アミロイドβを脳から取り除く

アルツハイマー型認知症では、発症の20年以上前から「アミロイドβ」というタンパク質が脳にたまり始め、神経細胞を傷つけていくと考えられています。抗アミロイドβ抗体薬は、このアミロイドβに抗体がくっついて脳から取り除くという、これまでにない仕組みの薬です。症状を和らげる薬ではなく、病気の原因物質に直接働きかける薬という点が画期的なのです。

先駆けとなったアデュカヌマブはすでに撤退

2021年にアメリカで承認されたアデュカヌマブ(アデュヘルム)がこのタイプの第1号でしたが、有効性への評価が定まらず、日本では承認されませんでした。その後、開発元の判断により2024年に開発・販売が終了しています。以前この記事でご紹介した薬が主役の座を降りた形ですが、その経験が次の2つの薬につながりました。

レカネマブ(レケンビ)——日本発、世界初の本格承認

エーザイが開発したレカネマブ(商品名レケンビ)は、2023年9月に日本で承認され、同年12月から使われています。臨床試験では、18か月の投与で症状の悪化スピードを約27%緩やかにしたと報告されています。2週間に1回、点滴で投与します。現在は自宅でも投与できる皮下注射タイプの承認申請も行われており、通院負担の軽減が期待されています。

ドナネマブ(ケサンラ)——選択肢が2つに

イーライリリーが開発したドナネマブ(商品名ケサンラ)は、2024年9月に日本で承認された2つ目の抗アミロイドβ抗体薬です。4週間に1回の点滴で、投与期間は最長18か月。アミロイドβが十分に除去されたことが確認できれば、投与を終了できる設計になっているのが特徴です。臨床試験では約29%の進行抑制が報告されています。

誰が使える?費用はどのくらい?

対象は「ごく早期」の方に限られます

ここが最も大切なポイントです。この2つの薬の対象は、軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症の段階で、かつ検査(アミロイドPETまたは脳脊髄液検査)で脳にアミロイドβがたまっていることが確認された方に限られます。中等度以上に進行した方は対象外です。また、投与できるのは認知症専門医がいてMRIで経過を追える体制の整った医療機関に限られており、どこの病院でも受けられるわけではありません。

薬剤費は年間250〜300万円台、ただし自己負担は大幅に軽減

レカネマブの薬剤費は発売当初、体重50kgの方で年間約298万円でしたが、2025年11月に薬価が15%引き下げられ、年間約250万円台になりました。ドナネマブは年間約308万円です。高額に見えますが、公的医療保険と高額療養費制度が使えるため、実際の自己負担は所得に応じた上限額まで(一般的な所得の方で年間14万円程度)に抑えられます。窓口で「300万円もかかるなら無理」と諦めてしまう前に、ぜひ制度のことを知っていただきたいと思います。

薬剤師として伝えたい注意点とこれから

期待の大きい薬ですが、注意点もあります。ARIA(アリア)と呼ばれる脳の浮腫や微小出血が一定の割合で起こることがわかっており、定期的なMRI検査を続けながら慎重に使う必要があります。また、進行を「緩やかにする」薬であって、認知症が治る薬ではないことも正直にお伝えしなければなりません。

それでも、原因物質に働きかける薬が2つも使えるようになったことは、大きな一歩です。そして対象が「ごく早期」に限られるからこそ、早く気づくことの価値がかつてないほど高まっています。血液でアミロイドの蓄積を調べる検査の実用化も進んでおり、診断のハードルは今後さらに下がっていくでしょう。

「最近もの忘れが増えた気がする」「家族の様子が少し変わった」——そう感じたら、様子見で先延ばしにせず、まずはかかりつけ医やお近くのもの忘れ外来に相談してみてください。早く動くことが、使える選択肢を最も広げてくれます。薬のことで気になることがあれば、お近くの薬局の薬剤師にもお気軽にご相談ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました