結核専門の病院で働いてみた…。

記事内に広告を含む場合があります

人生

病院への転職の理由

薬局で働いていて感じたことは町の薬局では患者さんの病院でのカルテを見ることができません。その患者さんはどのような診療、検査を受けてここにやってきたのかがわかりません。それを処方箋から推測したり、教えてもらうのが薬局の薬剤師の醍醐味ともいえるのですが、父親の病気からまだまだ知らないことがたくさんあると感じたのと、薬剤師人生の早いうちに病院勤めも経験しておきたいと考え、薬局を退職し、病院に勤めることにしました。

院外処方が進み、病院勤務の薬剤師は少なくなる傾向にあります。そのため、求人は町の薬局と比べて少なく、給料も少ないことが多いです。その時募集していた病院が結核専門の病院であり、就職することにしました。しかし、結核患者を受け入れる病院は他の病院と少し異なります。

病院と薬局の違い、他の病院と違う所

一般的に病院は薬剤師と事務さんしかいない薬局と違い、医師、看護師が主となって仕事を進める場所です。薬局では薬剤師が目立つ場所ですが、病院はどちらかといえば裏方になります。結核は感染力が強い感染症なので、結核患者が見つかると隔離入院させなければならないという結核予防法(現在は感染症法)という法律があり、結核患者に対応できる病院に来ることになるのです。たいていの場合、路上で血を吐いて倒れていたのが見つかり、近くの病院では受け入れる病院がないため、病院の救急車で迎えに行くという経緯で入院してきます。もちろん、感染予防のため、迎えに行く時から、N95と呼ばれる特殊なマスクをして白衣の上から予防衣と呼ばれるエプロンのようなものを着ています。夏場はとても暑いです。

(国立感染症研究所HPより)


N95マスクの例。口への密着度が強く、息がしにくい。

結核患者はどんな人が多いか

私が採用された理由は、薬剤師の仕事は調剤室の中での調剤と病棟に行って服薬指導する仕事がありましたが、勤務していた病院では病棟での服薬指導をする人がいなくて病棟勤務の人員を探していたようでした。

患者さんの典型的な特徴

  • 男性
  • 仕事のため地方都市から来ている(長男ではない)
  • 日雇い労働者
  • 路上生活者

時々、反社会的勢力にいたことがある(刺青がある)人もいた

背景

結核は感染力が強いが、すぐに発症するわけではないので、発症していない保菌者がいると知らない間に周りに広がっていきます。感染しても体力があるうちは発症しないのですが、加齢、疲労などにより、体力が弱って来ると発症して病院にやって来るのです。

彼らは高度経済成長期に高給で働ける仕事を求めて大都市に就職して、主に建設現場で日雇い労働者として働いていました。日雇い労働は明日の仕事があるかどうかわからないという点で不安定ですが、雇用関係にあることを不自由と嫌っている人たちが多いです。衛生的ではない環境で暮らしている為、体調が悪くなりやすいことが多く、一般のサラリーマンとは異なる価値観を持っている為、長期間入院して治療しなければならないことを理解してもらうのが困難である人が多い印象でした。また、生活保護をもらっている人が多く、生活保護費の支給があるとすぐ病院の近くのギャンブル場に出て行き、ギャンブルに使ってしまう人たちでした。

治療

結核患者さんにはすぐに入院してもらい、治療を始める前に痰を採取して10種類くらいある特殊な抗菌剤の中からどんな抗菌剤に効果があるかを確認してから、飲んでもらう薬を決定します。

通常の感染症とは異なって、1種類の抗菌剤しか使わないと耐性といって、その薬が効かなくなってしまいます。そのため、結核菌はタイプの異なる薬を組み合わせてまとめて3~4種類飲ませることになっています。ただ薬を配り、患者さん自身に服薬を任せているだけではわざと飲まない人がよくいるので、確実に服薬してもらうために決められた薬を調剤室で機械にかけて分包し、朝看護師さんが見ている前で飲んでもらうという方法をとっています。ここが他の病院と異なるところです。患者さんは痰から結核菌が検出されなくなるまで退院できません。入院期間は平均2~3ケ月くらいかかります。

しかし、入院生活が耐えられなくなって病院から逃げ出してしまう人々が時々いました。そのあとしばらくすると連れ戻されるのですが、最大の問題は服薬を急にやめることになるため、薬への耐性ができていることがあり、また初めから治療計画を作り、以前の薬が効くかどうか確認することになります。

病院での業務

朝食と服薬が終わった後、出勤した私は病棟での仕事を始めます。私も白衣の上に予防衣を着て病棟に行きます。病棟での仕事は主に副作用の確認です。病棟には看護師がいます。ここの病院では、これまでは薬剤師が病棟で仕事することはなかったために、看護師たちは薬剤師が病棟に来ることを快く思っていない人たちが多いです。確かに薬剤師は夜勤もしないし、土曜日、日曜日は必ず休むので、看護師と比べると立場が弱くなります。

感染のリスクを一番背負っているのは看護師であるので、仕方ないところはありますが、辛い立場でありました。一方患者さんたちは上記のように生活が乱れている人が多く、普段看護師たちから厳しく当たられているため、気軽に話しかけてくれる人が多かった印象です。結局、感染のリスクと看護師たちと意見が合わなかったこともあり、退職することにしましたが、忘れることのできない良い経験になりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました