親のお薬手帳を開いて、「こんなにたくさん飲んでいるのか」と驚いたことはありませんか。ご自身の薬が増えていると感じている方もいるでしょう。減らしたほうがいいのではと思っても、医師に「薬を減らしてください」とは言いにくいものです。この記事では、薬は何種類から多いといえるのかを整理しました。あわせて、どういう薬が見直しの候補になりやすいのか、気づいたときに何をすればいいのかを、薬剤師の視点から解説します。
薬は何種類から「多い」のか
複数の薬を飲むことによる害を「ポリファーマシー」と呼びます。厚生労働省が2018年にまとめた「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、これを単に薬の数が多いことではないとしています。それによって副作用のリスクが増えたり、飲み間違いが起きたり、きちんと飲み続けられなくなったりする状態のことです。
では何種類からなのかというと、同じ指針は「厳密な定義はない」としています。病気の状態や生活環境によって、適切な処方は変わるからです。
ただし、目安になるデータはあります。同指針によれば、副作用は薬の数にほぼ比例して増えるとされます。そして6種類以上が特に副作用の増加と関連していた、という調査が紹介されています(総合病院の老年病科に入院した2,412名が対象)。
筆者の感覚も、おおよそこの線と重なります。薬局の窓口で「多いな」と感じ始めるのは6種類くらいからです。ただ、高齢の患者さんではめずらしくなく、それ自体で驚くことではありません。
そして大事なのはこの先です。指針は続けて、治療に6種類以上が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあるとしています。そのうえで、本質的にはその中身が重要だと述べています。数をそろえるために減らすものではない、ということです。種類数は入口にすぎず、見るべきは中身だと考えてください。
なぜ薬は増えていくのか
薬が増えるのには、よくある道筋が2つあります。
ひとつは、足し算で積み上がっていくパターンです。新しい不調が出るたびに別の医療機関や診療科にかかると、それぞれは2〜3剤の処方でも、合計すると相当な数になります。指針もこれを典型例として挙げているところです。薬局の窓口でも、複数の医療機関からの処方箋を見て、似た効き目の薬が重なっているケースには実際に出会います。
もうひとつは「処方カスケード」と呼ばれるものです。薬の副作用で出た症状を新しい不調と受け取り、それに対してまた薬が足される——という連鎖です。指針では、副作用に薬で対処し続ける悪循環として説明されています。
どちらも、誰かが手を抜いた結果ではありません。それぞれの医師はその時々で必要な判断をしています。ただ、薬の全体を見る人がいないと起きやすい、という構造の問題です。
薬剤師が「見直せるかも」と目を留める3つのポイント
では、中身の何を見ればいいのか。筆者が薬局で目を留めているのは、おもに次の3つです。お薬手帳があれば、ご家族でも気づけます。
| 見るところ | お薬手帳での気づき方 |
|---|---|
| 複数の医療機関からの重複 | 別々の病院・クリニックのページに、似た効き目の薬が並んでいないか |
| 症状が消えているのに続いている薬 | いつの不調で始まった薬か思い出せるか。今もその症状があるか |
| 特段の理由なく続いている薬 | ビタミン剤・鎮痛剤・保湿剤などが、きっかけが分からないまま続いていないか |
3つ目は見落とされがちです。ビタミン剤や保湿剤は「飲んでも塗っても害はないだろう」と思われやすく、いったん始まるとそのまま続きがちです。鎮痛剤も、痛みが落ち着いたあとに残っていることがあります。始めた理由を思い出せない薬があれば、それは相談の材料になります。
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。ふらつきやもの忘れといった症状が、実は薬の影響ということです。指針では、血圧を下げる薬、睡眠薬、抗不安薬、アレルギーの薬などが、ふらつきや転倒に関係しうる薬として挙げられています。
ただし、心当たりがあっても自己判断で中止しないでください。急にやめると、かえって体調を崩すことがあります。気づいた時点で止めるのではなく、伝えることが大切です。
この3つは、「減らす判断」ではなく「相談の材料」です。実際に減らすかどうかを決めるのは医師であり、ご家族や薬剤師ではありません。
気づいたとき、どうすればいいか
まず、やらないほうがいいことから。指針にははっきりと、「ただの数合わせで処方薬を減らすべきではない」と書かれています。薬を中止する場合も、少しずつ慎重に行うべきだとされているところです。自己判断でやめることは、きちんと飲み続けられなくなる要因としても挙げられています。数を減らすこと自体が目的ではありません。
患者さん側からできることをまとめます。
- お薬手帳を1冊にまとめる。病院ごとに分けず、すべての薬が1か所で見えるようにする
- 気づいた点をメモして受診時に伝える。「この薬は今も必要ですか」と聞くだけで十分です
- かかりつけの薬局を1つに決める
- 市販薬やサプリメントも使っていれば、あわせて伝える
3つ目は効果が大きい方法です。指針でも、かかりつけの医師が処方の全体を把握することや、薬局を一本化することが挙げられています。これによってポリファーマシーの解消が期待できる、という位置づけです。先ほどの「全体を見る人がいない」という問題に、まっすぐこたえる方法です。
薬局の側も、ただ待っているわけではありません。重複に気づけば、処方した医師に問い合わせて確認します。病院とクリニックの処方箋を同時にお持ちいただいた場合は、クリニック側を優先して確認するのが筆者のやり方です。こうしたやり取りは日常的に行われています。
薬剤師が処方内容を確認する仕事については、以下の記事で解説しています。
疑義照会とは?薬局で待たされる理由と待ち時間の短縮法を薬剤師が解説
ひとつ添えておきたいことがあります。薬を減らす話は、かならずしも歓迎されるとはかぎりません。長く飲んできた薬をやめることに、不安を感じる方は少なくありません。効いている実感があればなおさらです。ご家族が良かれと思って勧めても、本人が納得できないまま話が進むのは、おそらく望ましくないでしょう。
ですから、最初の一歩は「減らす・減らさない」を決めることではありません。気になっている薬があると伝えてみる。それだけで十分です。そこから先は、本人の希望と体の状態を見ながら考えていくことになります。
お薬手帳の使い方や、かかりつけ薬局の選び方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
【薬剤師が解説】同じ薬なのに薬局によって値段が違う理由と、賢い選び方3選
薬の数が多いこと自体は、悪いことでも恥ずかしいことでもありません。必要があって増えてきたものです。ただ、全体を見渡す機会がないまま続いている薬があるなら、一度立ち止まる価値はあります。気になることがあれば、遠慮なくかかりつけの薬剤師にご相談ください。